セクハラはなくなるのか

人生は誰にとっても厳しいと実感する日々です。

僕の会社に、仮に「はるちゃん」としておきましょうか、30代後半の独身女性がいます。普段から物理的にやたら距離が近いんです。

仕事中に業務に関する話しをする際に、なぜか30センチくらいまで寄ってくるんです。吐息がかかる距離です。正直なところ、戸惑います。

酔うとさらに距離感がバグるようで、直近の飲み会では、スツールに座ってる僕の膝の間にスルッと入ってきました。「そこ僕の股間ですけど?」って心のなかで突っ込みましたが、声には出しませんでした。

はるちゃんはさらに酔った体を支えるように僕の肩に左手を置いて、もう一方の手にはグラスを持って、トロントした目つきで「奥さんがいるの羨ましい。私も結婚したい」と言いました。「他にも何人くらい女いるんですか?」

ほんとに人聞きの悪いことを言わないでほしい。嫁タソだけに決まっている。綾乃さん(怖いお姉さん)に聞かれたら、嫁タソの耳に入る可能性もあるんだから。そもそもこの距離感だって危険です。

嫌か?って聞かれたら、正直なところ、そんなに嫌じゃないです。男ってそういうものだと思うんですけど、違いますか?

僕は違わないです。
女性に近づかれて嫌な理由はないです。

ただ、嫌じゃないけど、望んではいないんですよ。この距離感を。

本心から嫌というわけではないんだけど、いろいろな社会的な立場というか、視線とか、影響を鑑みると誤解されるような行動は控えてほしいし、それをはっきりと伝えることも、色々と考えると難しいので笑ってやり過ごすという感じになってしまうんです。

 

 

はるちゃんは普段から「それ、セクハラですよ」とキリッと言い放つタイプです。正義感、強め。実際、若い男性スタッフが休憩中に「キャバ嬢にタイプって言われて一回抱いてって頼まれたんすよ~」なんてバカ話を始めると、別のおバカが「風俗の方が安くつくで」なんて下品な話を重ねてくる。

「ふたりともセクハラですよ、キリッ」と即ツッコミを入れるのが、はるちゃんです。

おそらく、自分の距離感が近いのはセクハラだと思われてないか?とか、何か僕に混乱を与えているのではないか?とは微塵も考えていないのかなと思います。あれは無意識のはるちゃんなりの自然な距離感なんだと思います。

別の時には、30歳くらいの男性社員がはるちゃんもいる場での雑談中に「可愛くなくていいから、コスパのいい女とやりてえよな」と言い放ったことがあります。

いや、ちょっと、もう一度社員研修してセクハラ教育しなきゃいけないなって感じますよね 。綾乃さん(怖いお姉さん)が担当なので言っとかないとな、 セクハラですよってまたはるちゃんが言うのかななんて思いました。

するとはるちゃんは「たまにはイケメンに抱かれたいとは思うけど、中の下の男にコスパがどうのとか言われてもなぁ」とサラッと切り返して、笑っていました。

僕はますます何がセクハラなのか、何がセクハラではないのか、わからなくなりました。

 

 

はるちゃんは協力会社の社員で、倉庫と配送を担当しています。うちの社員ではないけれど、仕事上は毎日、顔を合わせます。

ある日、営業ついでに客先に持っていく商品を探しに倉庫へ行きました。
うちの倉庫は5段の棚が列になって並んでて、フォークリフトで上げ下げするタイプになっています。天井が高く、薄暗く、人気がない倉庫で棚を見上げて品物を探していました。

はるちゃんが通りかかったので、探している品物を伝えて「もしかして、あそこですか?」と僕が棚の上の方を指さして聞いたら、「あっち」って言いながら、僕の腕をガシッと掴んで、グイッと動かしました。

いや、そこは自分で指さしてくれれば良くないかなって思いました。それ、たぶん逆だったら完全にセクハラですよね。

人気のない薄暗い倉庫での謎のボディタッチ・コミュニケーション。ほんと勘弁してほしい。生理的に嫌というわけではないです。むしろ、どちらかといえば嬉しい寄りです。

でも、これ、誰かに見られてたらどうするの。


僕には「前科」があるんですよ。嫁タソももともと協力会社のスタッフだったので、「また社長が下請けの女に手を出した」なんて言われかねない。だから、はるちゃんの自然なボディタッチは、僕にとっては不自然な緊張を生むんです。

僕的には勘違いされるのはほんとに困ります。

 

 

 

ちなみに、はるちゃん、あるお得意先を出入り禁止になっています。

彼女、配達先ではとても評判がいい。建設業のおっさん多めの現場に、明るくて人懐っこいはるちゃんが来れば、そりゃ癒やしになるでしょう。

けど、ある古株のお得意さんの専務が、けっこうガチ目に口説いてきたらしい。

ある日、はるちゃんが配達から帰ってきた時、ビニール袋を手にしていたんです。その中には、その専務の名刺。裏面には手書きの携帯番号。そして袋を開けると、香水の匂いがムンムン。

彼女いわく、「車の中が香水臭くて気持ち悪いから捨てようと思ったけど、セクハラの証拠になるからビニール袋に入れて持って帰ってきた」とのこと。

はるちゃんの話を要約すると──
その専務、「高級車持ってるからドライブしよう」とか、「普段行けない高級なお店に連れて行ってあげる」とか、顔を合わせるたびに言ってきたらしいんです。
なんかムカつくし、チビだし、ウザかったけど、お客さんなので笑顔で適当に流してたら……勘違いされたみたい。すごくしつこくて、困っていたそうです。


すぐに綾乃さんと僕の耳にも入り、はるちゃんの会社の上司が動くことに。本人は休みにして、そのお得意先へ「別の者が配達に伺いました」という体で対応したらしいんだけど、うまくいかなかったみたいで──

翌日には、問題の専務から「はるちゃんの態度に問題があるため、出入り禁止」と通達が。

はるちゃん本人は、「むしろ行かなくて済むから楽になった」と言ってましたけど、心があたたまる話ではないですよね。

「さぁ、ここはあなたがただのダメ人間ではないというところを皆に示すチャンス。その専務にキリッと言え。社長らしく、ビシッと対応して!」と綾乃さんに言われたので、言われた通りにキリッとビシッ!っと言ってやることにしました。

が、その前に、綾乃さんは僕のことをダメ人間だと思っているの?皆もそう思っているの?となんだか心配になりました。

でもいいや、ダメ人間要素は確かにあるし。でも僕はやればできるおじさんのはずです。

 

 

綾乃さんにそれっぽいメールを僕名義で先方の社長に送ってもらいました。

「弊社では、社員・協力会社を問わず、業務上の関わりを理由に私的関係を強要する行為や、 

それを拒否したことによる業務的な不利益の発生を、ハラスメント行為と認識し、非常に重く受け止めております」

 

 

取引がなくなっても、こっちが悪いわけでもないんだし、しょうが無いよねって感じです。

 


すぐに先方の社長から電話きて「ごめん、弟しばいとくわ。あいつ結婚できないわけだ。まじごめん」って言われました(意訳です)。

 

 

 

 


嫁タソに意を決して話してみました。

「会社でちょっと困ってることがあってさ…」って切り出したら、

嫁タソは業務スーパーで買った冷凍チーズケーキを口に入れながら、「うん?なに~?」って気のない返事。

「前科一犯だから、そう思われてもしょうが無いよね」ってあまり興味なさそうに言ってました。

みんながもっと生きやすくなる世界になるといいな(*´ω`*)