僕の会社に、仮に「はるちゃん」としておきましょうか、三十路後半くらいの独身女性がいます。普段からやたら距離が近いんです。物理的に。
話しかけてくるとき、なぜか30センチくらいまで寄ってくる。これ、笑い事じゃなくてけっこう怖いんです。
飲み会になると、さらに過激で、スツールに座ってる僕の膝の間にスルッと入ってきたりするんです。「ちょ、そこ僕の股間ですけど?」って心の中で叫びながら、ニコニコしてるしかない。なぜなら、おっさんは常に「誤解を恐れる」存在だからです。
しかも、はるちゃんは普段から「それ、セクハラですよ」とキリッと言い放つタイプ。正義感、強め。実際、若い男性スタッフが休憩中に「キャバ嬢にタイプって言われて一回抱いてって頼まれたんすよ~」なんてバカ話を始めると、別のおバカが「風俗の方が安くつくで」なんて下品な話を重ねてくる。
「ふたりともセクハラですよ、キリッ」と即ツッコミを入れるのが、はるちゃんです。
はるちゃんは協力会社の現場担当で、うちの社員ではないけれど、仕事上は毎日のように顔を合わせます。僕は今、人手不足もあって営業も倉庫も配達も全部こなしてますけど、まぁ、もともと自分で始めた会社ですし、営業一本よりは退屈しないぶん、楽しい……と思うことにしてます。
ある日、営業ついでに客先に持っていく商品を探しに倉庫へ行ったら、はるちゃんがいました。
「あれ、あそこですか?」って僕が棚の上の方を指さして聞いたら、「あっち」って言いながら、僕の腕をガシッと掴んで、グイッと動かす。
……いやいや、そこは自分で指さしてくださいってば。それ、たぶん逆だったら完全にセクハラですからね?
うちの倉庫は5段の棚が並んでて、フォークリフトで上げ下げするタイプなんですけど、その中での謎のボディタッチ・コミュニケーション……ほんと勘弁してほしい。
これ、誰かに見られてたらどうするの。最悪、「また社長が下請けの女に手出してる」とか噂されかねないわけで……。なにせ、僕と嫁タソももともと会社で知り合ってるので、前科一犯みたいなものなんですよ。
だから今は、ただでさえニコニコ頷いて、無難に過ごす日々。こちらから妙なことは一切しない。でも、向こうからの「近すぎる」無意識攻撃には、内心ドキドキしつつも、リアクションに困る。
今の時代、おっさんは常に「何もしてなくても、何かしてると思われる」予備軍なんです。セクハラ、パワハラ、モラハラ、リモハラ、マタハラ、スメハラ、ジジハラ……もう何ハラかわかんないけど、とにかく多すぎて、まじで怖い。
結果、おっさんは「うかつに距離感を保てない」「うかつに笑えない」「うかつにLINEスタンプすら送れない」生き物になりました。いやほんと、生きづらいです。
嫁タソに意を決して話してみました。
「会社でちょっと困ってることがあってさ…」って切り出したら、
嫁タソは業務スーパーで買った冷凍チーズケーキを口に入れながら、「うん?なに~?」って気のない返事。
「前科一犯だから、そう思われてもしょうが無いよね」ってあまり興味なさそうに言ってました。
みんながもっと生きやすくなる世界になるといいな(*´ω`*)