クズ勝負パート1

娘の結婚式で前の奥さんに会うことになるのですが、その日が近づくにつれて、関わっていた時期の嫌な記憶が不意にフラッシュバックしてきて、メンタルが削られています。

精神的に辛いので、文字にして書いてみることにしました。もしかしたら、書くことで自分の中で何かが整理されて、気が楽になるかもしれない。気のせいかもしれませんが、試しにやってみます。

一方的に前の奥さんのことを悪く書くのは良くないと思うので、バランスを取るために、彼女を傷つけたであろう僕のクズっぽい行動も一緒に書いていきます。

どちらがよりクズでゲスなのか、自分なりに整理できればと思います。

付き合い始めたのは高校生の頃でした。

僕の高校の文化祭に、友人の彼女の“友達”という立場でやって来たのが、前の奥さん──ここでは祥子という名前にしておきます──でした。そこから、僕の地獄が始まりました。

当時は確かに可愛かったんです。向こうから積極的に誘ってきて、自然と交際が始まりました。

でも、1ヶ月ほどで「他に好きな人ができた」と言われて別れることに。でもまた1ヶ月も経たないうちに、「もう一回付き合ってほしい」と言われたんです。当時は恋愛ってよくわかっていなかったし、ドラマとかでよくあるような“別れたりくっついたり”って、そういうものなのかなと思ってました。

「何があったの?」って聞いたら、祥子は必要以上に素直に答えてくれました。

僕と付き合っていたときに、高橋という工業高校の男にナンパされて遊びに行った。好きになってしまったけど、高橋には彼女がいたので交際には至らなかった。その後、別の男にナンパされて飲みに行って、そのままホテルに行ったけれど途中で男がやめてしまったと……。それを、克明に説明してくれました。しかも、連絡先を交換したのはその“途中でやめたあと”。事後に電話番号を聞いて、後日そこに電話したら焼き鳥屋さんだった、というオチまでついてました。

僕は正直「もう無理だ」と思いました。でも同時に、妙な高ぶりを覚えてしまったんです。祥子に対して、強烈な興味が湧いてしまった。僕の中の変態的な癖が、頭をもたげた瞬間だったと思います。

実は僕には、“嫁タソが他の男と楽しそうにしていると嬉しくなってしまう”という癖があります。AIは「特殊ではない」「変態でもない」と言ってくれたんですが……多分、変態です。もしくは、心の傷かもしれません。

そんなこんなで、結局また交際が始まりました。

そんなある日、高校の友人と一緒に、八王子にある大学のアジカンのライブに行きました。友人が、その大学の附属高校に通っている知人に頼んで、前から2列目という神席を取ってくれていたんです。

ライブ会場では、その友人の友人たちとも合流しました。みんな初対面でしたが、アジカンという共通の熱で一気に打ち解けることができました。

数日後、

その時知り合ったうちの一人から電話がかかってきました。

「高校の知り合いで、さやさや君に彼女を寝取られたって怒ってるやつがいてさ。連絡先教えろって言われたけど、知らないって言っといたよ。まぁまぁヤバいやつだから、気をつけたほうがいいかも」

……なんだそれ。とりあえず祥子に、「八王子の〇〇っていう大学の附属高校に知り合いいる?」と聞いてみました。

「なんかね、祥子と付き合ってたって主張してるみたいなんだけど」と。

すると祥子は、明らかに不快そうな顔をしてこう言いました。

「付き合ってなんかないよ。あいつ、嫌がってるのに無理やり山下公園でキスしてきて、指入れてきたんだよ。顔もデカくて、思い出すだけで気持ち悪い」

「それ、いつの話?」と僕が聞くと、

「別れてた間だよ」と答えました。

それなら……まぁ、悪いことでもないのかな。でもね、どんだけサカってんだよ、と心の中で毒づいてしまったのも事実です。

さらに別の日。

祥子と一緒に、家の近所を歩いていた時のことです。僕の小学校からの友人、エイジが僕を見つけるなり、嬉しそうに駆け寄ってきました。

「おう、エイジ」と僕。

「おまえ、女寝取られたんだってな。そんでもう新しい女作ってんのかよ?」と、祥子を見ながらニヤニヤしてる。

……お前、デリカシーってもんがねぇのか。

でも、そういう連中と一緒に育ってきたんです。はい。

エイジは続けました。

「高校の高橋ってやつが言ってたんだよ。確か祥子とかって名前の女だろ、前の彼女」

隣にいるのが祥子本人だとは言えず、僕はそっと祥子の顔をうかがいました。

祥子は青筋を浮かべながら、「なんなの。いい加減なこと言わないでよ。馬鹿なんじゃないの」と、エイジに抗議。

さすがのエイジくんもそこでようやく察したようで、「やっべやっべ」とつぶやくと、「じゃあな」と大げさに手を振って走っていきました。彼、中学の野球部でエースで4番だったんですけど、まぁ脳筋てことですね。

「高橋と、まだ会ってるの?」と僕。

祥子の口から聞きたくない名前。でも、どうしても聞きたかった。

「違うよ。別れてる間に何回か会ったけど、キスもしてないし。彼女がいるからって振られたんだよ。あのエイジくんって人、嫌い」と、祥子はむすっとして言いました。

何が本当なのか、正直わかりません。でも、短期間に違う筋から彼女の“過去”が立て続けに耳に入ってくると、さすがに疑いの気持ちが頭をもたげます。

これが2つだけの話なのか。もっとあるのか。そして本当に「別れている間」のことなのか──。下衆な勘ぐりを止めることができませんでした。

次は僕の話です。

このあたりで縁を切るべきだったと、今では思います。でも、それは結果論というやつです。

エイジの発言以降、祥子との交際はなぜか順調でした。進級して、また文化祭の季節がやってきました。

祥子は女子校、僕は共学でした。

当時、僕には非常に仲の良いクラスメートがいました。麻里子という名前の、陸上部で短距離をやっていた小柄な女の子です。最初は、男女混合のグループでお昼を食べたり、UNOをやったりして遊んでいました。そのうち、月に一度くらい、誰かの家に集まって料理を作って食べるようなこともしていました。昔の話だから書いちゃいますが、高校生のくせに、おしゃれなバーや居酒屋に飲みに行ったりもしていたんです。

そして、いつの間にか二人きりで遊ぶようになっていました。公園を散歩したり、飲みに行ったり。ちなみに、バイクの後ろには祥子以外は乗せないと決めていたので、麻里子との外出はいつも電車でした。

恋人らしいことは一切していませんでした。でも、手をつないだり、腕を組んだり、肩に手を回したりは、ごく自然にしていたと思います。

校内でも手をつないで歩いていたし、麻里子が僕の上着を着ていたりもしたので、周りから見たら付き合っているように見えたかもしれません。

僕の学校は校則がゆるくて、制服は決まっていても、男子はズボンさえ履いていれば、上はTシャツでもパーカーでもOK。僕は制服のブレザーの代わりにGジャンをよく着ていました。

麻里子は、よく白いブラウスを着ていて、下に着ている水色のブラジャーが透けて見えていたんですが、時々、断りもなく僕の上着を羽織っていたりもしました。

……友達以上、恋人未満。僕は、クズですね。

ある日、祥子にこう言われました。

「友達の友達で、占いがすごく当たるって子に占ってもらったら、私とさやさやの関係を邪魔してる女がいるって言われた。……なにか隠してない?」

真剣な顔でそう言う祥子に、僕は真顔で「なにもない」と答えました。クズです。

祥子は、「今年も文化祭に行くからよろしくね」と言っていました。

僕は学校で、麻里子と向かい合ってお弁当を食べているときに言いました。

「今度の文化祭に彼女が来るから、紹介するよ」

麻里子は笑って、「どんな子か楽しみ」と言いました。

文化祭当日。

僕は黒いTシャツに、色あせた丈の短いGジャンという格好でした。室内は暑かったので、Gジャンは椅子の背にかけて作業に取り組んでいました。

祥子が女子校の友達と一緒に来たので、僕は持ち場を一度離れて、一緒に学内を回りました。一通り見終えて、自分のクラスに戻ると──

麻里子が、僕のGジャンを着ていました。

麻里子が僕の方に歩いてきたので、祥子に「クラスメイトの麻里子」と紹介しました。

麻里子は満面の笑みで「はじめまして」と挨拶しましたが、祥子の方はどこかぎこちない感じで言葉を返し、すぐに友達の手を引いてその場を去っていきました。

文化祭が終わったら祥子と一緒に帰る約束をしていたので、待ち合わせ場所に向かうと、そこには泣いている祥子と、彼女をなぐさめる友達の姿がありました。

「あの子が、私たちの邪魔をしてる……」と、しゃくりあげながら言う祥子。

自分の知らない女の子が、彼氏の上着を着てニコニコしていたら、そりゃ嫌だよな……と、祥子の涙を見てようやく気づきました。

この出来事が原因で、祥子と僕は「少し距離を置こう」という話になりました。しばらく、1ヶ月くらい会うのをやめようと。

ここまでだと、どっちがクズでしょうか?

やっぱり……僕、ですかね。

でも、こうして書いてみると、少しだけ気分が軽くなった気がします。

また気が向いたら、続きを書きますね(*´ω`*)