静かな湖畔の甘い夜風の続き

2年くらい前に書いたブログの続きになります。
書こうと思っていてかなり時間が立ってしまいました。

sayasayafx.com

ボクはこの子の名前をずっと忘れていたのですが、自衛官の弟の家に何故かボクの卒業アルバムがあったということで送ってもらいました。

見てみると吹奏楽部の金色カタツムリ担当の女の子の名前は恵でした。当時は名字で呼び合っていたので仮名で横川としておきます。

時系列は前回の記事の直後です。

朝、まだ少し冷たい空気の中、ボクはヤマハの400CCのエンジンをかけました。

横川を迎えに行くためです。

みんなで言った遊園地の帰り道、信号待ちで「二人でもっと気軽に遊び行こうよ。色々誘ってよ」みたいなことを彼女に言われました。

もちろん、そんな事言われても誘えません。緊張しちゃって無理です。

頭の中はデートしてあんなことこんなことできたらいいなまじでできるのかなたまんねぇ(*´ω`*)ハァハァ
なので、勝手に照れちゃって誘えなくなります。

そしてボクは横川の前の彼氏、吹奏楽部先輩のサラサラガリガリ君と違って400CCのバイクに乗るタフでクールな男なので、チャラチャラと女子を誘うなんてカッコ悪いと自分に言い聞かせていました。
誘う勇気がないだけだったんだけど(*´ω`*)

で、もじもじしてたら女子のほうが大人と言うか積極的と言うか、今度はいつバイクに乗せてくれるのと休み時間に言われました。
鉛筆とか消しゴムを時々借してくれるのでしょうがなく約束をしました(*´ω`*)キリッ


大喜びでしたがバレないように「今度の日曜日なら時間取れると思う」と答えました。
女の子をバイクの後ろに乗せると高校生男子は皆だいたいハァハァ(*´ω`*)します。
もう想像だけでボクはハァハァしてましたが、クールにタフに「迎えに行くよ(*´ω`*)キリッ」とこたえました。

彼女の家の前でバイクを停めると、すぐにドアが開き、 いつもの制服じゃない、ジーンズにキルティングジャケット姿の横川が出てきました。
ボクはもうここでいっぱいいっぱい。
私服のクラスメートと二人きりでお出かけ。
これはデートだよね。デートって呼んでいいんだよね(*´ω`*)ハァハァ

「おはよう」

静かな声。 でも、どこか嬉しそうな表情でした。

「おはよう。……乗れる?」

「うん、乗せて」
紳士のボクは体を密着させずに乗れるタンデムバーを握る乗り方を教えました。
とはいえ横川はバイクに乗るのは2回目なので上手く出来る筈もなく。
バイクの後ろにまたがった横川は、 慣れていない手つきで、ボクの腰のあたりに手を置きました。

手が触れた瞬間、体中に電流のような衝撃が流れましたが本番はこれから。
この程度で衝撃を受けていたらこの先は耐えられないと自分に言い聞かせ、気を引き締めました。

「じゃあ、出発するよ」

振り返らずに言って、クラッチをつなぎました。

走り出してすぐ、 ふわりと、横川の腕がボクの体に回ってきました。

背中にけしからん感触の何かがあたって、これは無理だ、耐えられるわけがない(*´ω`*)

しかし、(*´ω`*)ハァハァしてるとバレるのはなんか負けた感じがするので、

全く興味もないし気にもならないね(*´ω`*)キリッ

ボクは君の前の彼氏の軟弱サラサラガリガリ君と違ってタフでクールだからね(*´ω`*)キリッ

ボクの恋人は単車だけさ(*´ω`*)キリッ
というふりを前回と同じく続けていました。

街を抜け、郊外へ向かいました。 緑が増えてきた道を、ボクたちは少しだけスピードを上げて進みました。

後ろから伝わる体温。 横川の指先。 単車の振動と、心臓の鼓動。

ブレーキをかけるとけしからん感触が背中に伝わり、もう身が持ちません(*´ω`*)

色んな思いが駆け巡り、何が現実なのか妄想なのかわからないままに目的地に到着しました。
普段の何倍も疲れました。

バイクを止めたのは、 川の流れる音がかすかに聞こえる小さな駐車場でした。\

ヘルメットを脱ぐと、横川の髪がふわりと揺れました。 その仕草が、やたらと大人っぽく見えました。

「着いたよ。……ここ、初めて?」

ボクが言うと、横川は小さくうなずきました。

「うん。初めて」

そう言いながら、 少し照れたような笑顔を見せました。

歩き出すと、すぐに広がる、河原と草原。
彼岸花が有名なスポットでしたが花には一切目が行きませんでした。

二人並んで、話しながら歩きました。

「レイ君と紀子ちゃん、仲いいよね」と横川はいいました

「学生の本分は勉強なのにけしからんよね」とボク

「それよりも変態の元カレのストーカー被害は大丈夫?」

「何で私が変態と付き合ってたことになってるの?」と横川は笑った。

「なんか言ってなかったけ。前の彼が変態とかなんとか」

「それはサヤが言ってたんだよ。ああいうタイプはだいたい変態って。元カレのはなしなんてもういいよ」

やべっ(*´ω`*)どうしようと思いましたが、平静を装いつつ眉をしかめて空間を睨み「そうだな。未来を見て生きたいよな(*´ω`*)キリッ」

「今の冗談?」と横川は真顔でボクの顔を覗き込みました。

「すべっちゃった」とボクがいうと横川が笑い、ボクは胸を撫でおろしました。

やばかった(*´ω`*)

たまにすれ違う人たちが、何気なくボクたちを見ました。

恋人同士とかだと思われたかもしれないと想像すると照れちゃって顔が赤くなってないか心配になりました。

少し歩いたところにあったベンチに、 横川がふと腰を下ろしました。

「ちょっと、休憩しよ」

「うん」

ボクも隣に座りました。

「……楽しいね」

横川がぽつりとつぶやきました。 それが誰に向けた言葉なのか、わかりませんでした。

でも、ボクは思わず答えていました。

「……うん。楽しい」

二人の間に流れる静かな空気。 川の音だけが、遠くで続いていました。

横川が、 そっとボクの手の上に、自分の手を重ねました。

何も言わずに。

ボクは平静を装ってましたが、実はどうしていいのかわからずに混乱していました。

雑誌で勉強した上手な女性のお落とし方8選とか女性をその気にさせるテクニック10選とか、それ系の記憶を必死に探してどうすればいいのか全力で考えていました。

ベンチでしばらく手を重ねたまま、 ボクたちは何も言いませんでした。

動いたら壊れてしまいそうな、 そんな空気でした。

「……帰り道、あの湖によっていかない?」横川がいいました。

「いいよ。行こうか」

バイクにまたがり、走り出しました。

帰り道、 横川は最初から、 ボクの腰に両腕を回してきました。

行きよりも、ずっと、強く。

ダメだってそんな事したら(*´ω`*)
事故っちゃうって(*´ω`*)

何も言葉はありません。

横川の体温。 細い指。 小さな鼓動。

ヘルメット越しに感じる、かすかな吐息。
そういった一つ一つがボクに何かを伝えていました。でもそれがなんなのかはわかりませんでした。

ボクは無言でアクセルを開きました。

日が沈みかけたころ、静かな湖畔の堤防にバイクを止めました。 二人で、静かに、単車を降りました。

辺りは、ほんのりとオレンジ色に染まっていました。 ダム湖に映る空の色も、 薄紫と金色が混ざりあって、夢みたいにきれいでした。

誰もいない堤防。 遠くでカモの声が聞こえるだけ。

「きれい……」

横川が、ぽつりとつぶやきました。

「……だな(*´ω`*)キリッ」

ふたり、並んで湖を眺めました。

気づけば、 横川の手が、そっと、ボクの手に触れていました。

指先だけ、 ほんの少しだけ。

ボクは、 そっとその手を握り返しました。

横川が、こちらを見上げました。

少しだけ、微笑んで。 でも、目は、すごく真剣でした。

何をしていいのかわからず、何か冗談を言って笑わせなければと焦ってました。
でも、 声が出ませんでした。

ボクが戸惑っていると、 横川のほうから、そっと顔を近づけてきました。

そして、ためらうことなく、 軽くボクの唇に触れました。

ボクは完全に思考停止しました(*´ω`*)あぼーん

彼女は、小さく笑ったあと、 また、もう一度だけ、そっとキスをしました。
ボクの脳みそは完全にショートして、 ハァハァもしてませんでした。

見上げる横川に、ボクは言葉を失っていました。

「……なんか言うことないの?」

横川が、少し困ったように笑いました。

「……なんか、ありがとう」

ボクはそれだけ言うのが精一杯でした。

横川は小さな溜息をついて、 ボクをまっすぐに見つめました。

「サヤのこと、好き」

その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられました。

 

「……よくわかんないんだけどボクも横川のこと好きなんだと思う」

ボクは、正直に答えました。

横川は、また小さく笑って、

「じゃあ、付き合う?」

と尋ねました。

「……うん」

ボクは、うなずきました。

ふと気がつくと、堤防の向こうに広がる湖面が、紫と金色の光にゆらめいていました。

空は群青色に溶けかけ、 湖に映る夕陽の残照が、波のように揺れています。

遠くから微かに風が吹き、 頬を撫でると、ふたりの間の静寂を、そっと包み込むようでした。

夕暮れの湖畔で、ただ寄り添いながら、 ボクたちは、ゆっくりと夜に溶け込んでいきました。